量子電池は次世代電池の主役となるのか?: パァ〜プ山田の日々雑感 スキノレン

2014年02月21日

量子電池は次世代電池の主役となるのか?

前回の記事で紹介した、日本マイクロニクス(以下、MJC)が、量産化技術の開発に成功したという量子電池「Battenice」が、いよいよ2/26(水)〜2/28(金)に、東京ビッグサイトで開催される「国際二次電池展」に出展される。

通称バッテリージャパンと呼ばれる、この展示会のプレス向けパンフレットには、290社が出展するという中から、MJC社の「Battenice」の写真と紹介文が堂々と載せられ、あたかも本展示会の目玉的存在であるかのような扱いである。

しかし、肝心の「Battenice」の性能については、昨年11/19発表のIRで公表された数値しか明らかにされておらず、電機・自動車・産業機器等のメーカーから、巷の技術マニアや個人投資家に至るまで、多くの人々が注目しているであろうにも拘らず、ごく少数の関係者を除いては、現時点でその詳細を知る者はいない。

今回の電池展は、企業同士の商談が目的の展示会である為、26日の開催を持ってしてもMJC社から特段のIRが発表されない限り、「Battenice」の性能や進捗具合に関しての新たな情報を得る事は不可能かと思われる。

同社の株価は、2/6に発表された好決算と、1Qでは異例とも思える通期の上方修正によっても、かなり割高とも思われる水準で推移しており、来週の電池展での御披露目が、如何に投資家の注目を集めているかを示しているが、相も変わらず量子電池について無視を続けるメディアの姿勢も相まって、より多くの情報を求めて、このサイトへのアクセスも増加し、巷間様々な憶測を呼んでいる。

そんな中、「億の近道」という投資家向けのサイトに「日本マイクロニクスが共同開発した量子電池の量産技術について」という文章が掲載された。
http://ch.nicovideo.jp/okuchika/blomaga/ar464777?cc_referrer=ch
これは、日本株ファンドマネージャで、コロンビア大学工学修士という山本潤氏によって、「Battenice」についての性能や将来性について、やや懐疑的な立場と、高騰する株価に警鐘を鳴らす為に書かれたレポートと受け止められる。

中卒エンジニアである私ごときが、畏れ多くも修士先生の論に異を唱えるのは、甚だ恐縮ではあるが、未だ秘密のベールに包まれた「Battenice」に対して、懐疑的な立場を取られる方の主張に、私が抱く素朴な疑問をぶつける事で、量子電池の持つ性能や問題点について、少しでも浮き彫りに出来れば幸いである。

以下、上記サイトより引用。
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> 量子電池の性能で、既存の電池を上回るのは急速充電性とサイクル特性である。
> だが、それらに付加価値を何倍も払うことはない。
> なぜなら、人は割高なものは使わないからだ。
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工業製品にとって、最も重要な「安全性」に対する評価が、完全に欠落しているのではないか?

何よりも安全性が重視され、その重要性によってコスト評価される用途は、枚挙に暇がない。
例え、コンシューマ向け商品であっても、実際に火災事故が頻発したLi電池よりも、もっと安全な商品を欲しているメーカーやユーザーも多いはずである。
又、価値観の多様化により、他より圧倒的に優れた特性を持つ商品であれば、高価で在るが故に人気商品となっている例は多い。

少なくとも私は、発火・発熱・爆発等の危険性を孕んだ製品よりも、イニシャルコストが嵩んでも安心な製品を、自社の顧客には積極的に御奨めして行きたいし、自家使用の製品についても同様である。

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> 電圧という電池の一番大切な基本特性がBatteniceは既存電池に劣る。
> 量子電池の利点である電子移動度の高さはリーク電流となり放電時間の短さという
> デメリットとなってしまう。急速充電のメリットの裏返しだ。
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リーク電流により、放電時間が短いというのは、MJC社のどの資料を根拠にしているのか不明。
少なくとも、公開されているIRや特許文献には、放電特性に関する記述は見当たらない。
特許資料<WO2013179471 A1> 「量子電池の試験用半導体プローブ、試験装置及び試験方法」図8に、充放電特性のグラフが記されている。
https://www.google.com/patents/WO2013179471A1?cl=ja
定電流源での充電は、充電開始と共にリミッタ電圧まで直線的に電圧が上昇し、放電特性は、放電抵抗の抵抗値に依存したカーブとなっており、氏の危惧するリニアな放電にはなっていない。
(※2014/2/23 訂正加筆。)

MJC社への取材もせずに、憶測によって、この商品の価値を毀損しているのであれば、かなり大きな問題ではないのか?

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> 参入障壁が低いビジネスは儲からない。
> 量産化可能ということは、誰でもまねできる、ということだ。
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「基礎データがなさすぎる」と、氏が自ら指摘しておられる様に、この製品は謎が多い。

巷間話題のSTAP細胞も、他の研究機関による追試では再現性が取れない理由は、特許権益にかかる問題から、細かなノウハウが秘匿されているからではないのであろうか?
誰にでも真似が出来るのか、そうでないのかについては、基礎データや製品についての詳細が不明な現状では、軽々に論じれる問題ではない筈である。

尚、グエラ社の開発した量子電池は、MJC社が持つ「大面積薄膜多層積層技術」をもって量産化技術の開発が実現したものであり、この技術によって同社の主力製品であるプローブカードは、世界でトップシェアを誇っている。
果たして、誰にでも真似が可能なのであろうか?

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> 個々の特定の粒子個体への電子の振る舞いが分からない。
> これでデバイス設計ができるのだろうか。
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氏の言われる「デバイス」という言葉が、「Battenice」という製品自体を指しているのであるなら、それこそが重要なノウハウであり、可能か不可能かは、完成した製品を持って評価するより他あるまい。

万一、氏の言う「デバイス」が、この電池を使用する機器の事を指しているのなら、設計の際に、電子の振る舞いまで考慮に入れる必要が無い事は言うまでも無い。
充放電制御の回路設計をする場合であっても、Li-Ion、 Li-Polymer、鉛バッテリーからニッカドに至るまで、充電池の種別を問わず、標準ICで広範囲にカバーする事が可能であり、多くの場合はメーカーのデザインノートに従って回路を組むだけで十分である。
http://parametric.linear-tech.co.jp/html/Battery_Management

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> Batteniceに高密度配線が必要であれば、製造コスト面と性能面で障害となる。
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前述のように、MJCがトップシェアを持つプローブカードの主要技術である「高密度配線」が、製造コスト面と性能面で障害と成り得るのかについては、少なくともプローブカードの世界において、他社との競争に打ち勝ってトップシェアを獲得してきた事実において、十分な価格競争力と性能を持っているものと判断できるのではないか?

量子電池の量産に、これらの技術が不可欠なのであるならば、逆にMJC社の持つアドバンテージを証明した事になり、先に氏が指摘した参入障壁が低いという認識は、大きな誤りである事になる。

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> 基礎研究の段階にも関わらず、基礎原理より、商売(量産性)を当事者たちは追求した。
> 量子電池の学術的 データはなく、実験データは非公表。
> 電圧の推移やら、現状の電圧水準やらなにも発表がなく、製品としての目標値を発表した
> データがないので、議論ができない。
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新技術を用いた商品に関して、ステークホルダー以外の者に、商品の公開以前に詳細な技術データを公開する間抜けな企業が、世界中のどこに在るのであろうか?
又、企業は学会に対して、そのような理不尽な義務を負わねばならないのであろうか?

かなり可笑しな事を、さも当然の様に言い放って居られる姿勢が不思議でならない。

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> もし、酸化物半導体がこんな安価な低温プロセスで良質膜ができるとしよう。
> ならば、どうして、あんなに苦労して、長年、東京工業大学グループは酸化物半導体を
> 研究し続けているのだろうか。
> もし、酸化物半導体のPN接合デバイスが、こんな安価なプロセスで作成できるなら、
> 量子技術者たちのこれまでの血と汗はなんだったのか。
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ブレークスルーは往々にして、この様な市井の研究者による、不断の努力によってもたらされる。
大きな業績を上げるには、大学の優秀な研究者同士のチームでなければならい、とでも仰りたいのであろうか?


氏は文中で、電池展においてMJCからヒヤリングすると言って居られるが、先にも述べたように今回の電池展は。飽く迄も商談を目的とした展示会である。
その様な、見込み客の対応に多忙を極める場所において、例え事前にアポが取れていたにしても、アナリストか肛門趣味者か知らないが、己が肩書を振り翳して商売の邪魔をするのは如何なものかと思う。

※ 加えて実に不可解なのは、氏がMJC社に直接取材する事もなく、自ら特許資料を精査する事さえせずに、電池展でのヒヤリングを実施する前の段階で、この様なレポートを公開するに至った事である。
現役のテクノロジーセクターのアナリストであり、日本株のファンドマネージャでもある立場なら、投資家に対しては、より正確な情報と分析を提供すべきであるにも拘らず、中途半端な思い込みだけで綴られた文章を、何故この時期に公表したのかが、大いなる疑問として浮かび上がる。
(※2014/2/23 加筆。)

証券会社が出す不可解なターゲットプライスの援護を受けながらも、独銀・モルスタ・メリルリンチという、錚々たる空売り王者が、無残に踏み上げられて早々に売りポジションを解消する中、今回のレポートが日本株ファンドマネージャという肩書を持つ、氏のポジショントークや売り煽りの類で無く、純粋に投資家保護と市場の健全化の観点から書かれたレポートである事を、切に祈りたい。

以上、お約束ではあるが、投資は自己責任であり、このブログに投稿されれている記事を真に受けて、大儲けしようが大損ここうが、私は一切与り知らぬ事と御了承願いたい。

※2014/2/23 追記。
2014/2/28 16:00現在において、上記のサイトから「日本マイクロニクスが共同開発した量子電池の量産技術について」の一文が削除されている様子であり、証拠保全の意味合いから、http://www.okuchika.net/ に残っている原文を、以下に全文を転載・引用させて頂く。
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◆コラム「日本マイクロニクスが共同開発した量子電池の量産技術について」
わたしは、原則、個別株の情報をここに書くことはしない。特に売りレポートは書かない。だが、例外的に個別株について売りレポートを書くことがある。
コラムの題材になると思うときは個別企業に触れることがある。
だいぶ前になるが、西暦2000年当時、わたしは、2つの売りレポートをこの「億の近道」に書いた。わたしのハンドルネームが大原部長だったときのものだ。
売りレポートのひとつは、青色LEDの量産化に成功した豊田合成だった。
日亜化学の基本特許の強さを書いたものだ。当時8000円だった豊田合成(7282)の株価は日亜との競合条件を照らし合わせれば明らかに行き過ぎだった。株価は大幅に調整し、その後、何分の1かに沈んだ。
もうひとつは、詐欺行為を行ったヒューネット(8836)について売りとした。現在、彼らは社名を変えている。液晶ディスプレイの新技術フィールドシーケンシャル技術を擁して株価は当時10000円を突破。ディスプレイ展示会への出展や大手企業との提携など、会社は派手な演出をした。多くの機関投資家のアナリストが騙された。わたしからみると、技術的には全くみるべきところがなく、やはり、株価は100分の1以下になってしまった。
(2000年執筆のコラムについては、以下のURLを参照。)
http://okuchika.net/?eid=4849
わたしは、現役のテクノロジーセクターのアナリストであり、日本株のファンドマネージャだ。株のプロとして、新技術に対する投資家の望ましい態度について、今回、示したい。

■新技術の被害者は情報弱者
個人投資家の中には新技術に飛びつく者がいる。いわゆる材料株物色だ。だが、材料株では多くの犠牲者が出る。「これはすごい製品だ」と間違った判断をするのは情報弱者だ。
わたしが不思議だと思うのは機関投資家の中にも、展示会で「実物」を見る
と信じてしまうアナリストやファンドマネージャがいることだ。ヒューネットではF投信やJ投信といった著名な外資系投資顧問のプロが、新技術の話になるとコロリと騙されてしまった。展示会のサンプルにまんまと騙されてしまう。
企業技術者・研究者のプレゼンに簡単に騙されてしまう。
今回、battenice特許から、素直な感想を述べる。
第一印象は、「基礎データがなさすぎる」。その中で、常識的な判断で、電池展に臨むことにした。電池展でマイクロニクスにヒヤリングをする論点を整理した。

■日本マイクロニクスがあるベンチャーの技術をベースに共同開発した量子電池について
今回、14年ぶりに個別株の株価水準についての警鐘を鳴らしたい。
日本マイクロニクス(6871)だ。
今年に入って、株価は13000円を突破。時価総額2600億円を記録した(執筆時点2月18日現在)。
あるベンチャーと共同して開発予定の量子電池battenice(商標)を擁して、今月2月の最終週に電池展でサンプル展示予定。「量子電池」という耳慣れない新技術の登場に株式市場が沸き立っている。

■量子電池batteniceとは

日本マイクロニクスがある地方都市の小さなベンチャー企業グエラテクノロジー社と共同開発するのが今から説明するbatteniceという電池だ。
彼らはこの電池を「量子」電池と呼んでいる。なぜ、「量子」なのか。それは、電子を直接、格納できる蓄電池だからだ。
これまでの2次電池は、リチウムイオン電池を筆頭に、化学電池であり、イオンが電子を格納する。
電池にとって、電子を直接格納できることは、メリットだろうか?
実は、電池製品にとって、量子化はメリットといえない。だが、いまは、そのことは後回しにする。

■量子電池batteniceの紹介
さあ、2次畜電池、量子電池batteniceを紹介する。
特徴:
1)希土類が不要。
2)1万回の充放電が可能。サイクル特性に優れる。
3)急速充電が可能。
4)個体・不燃で安全性が高い。
明らかに、既存のリチウムイオン2次電池に比べて勝っている点がある。
それは、希土類が不要であること。また、急速充放電が可能なこと。安全であること。充放電のサイクル特性に優れていること、などだ。

■目標仕様について
今後の目標とする仕様については、
1)電圧の目標値は1.5V。
2)電力密度については500Wh/L
などとされている。
http://www.mjc.co.jp/files/page/pdf/528b008635acc_20131119150910.pdf
小型軽量化、積層化が可能で、電圧の確保と高容量化を目標にしている。
だが、これらはあくまで「目標」とする仕様である。
目標とする電圧が1.5Vで、リチウムイオンの3.7Vと比べて低い。
また、容量の「目標」が500Wh/Lであり、高いとはいえない。
たとえば、リチウムイオン2次電池陣営で、積水化学がすでに900Wh/L
を達成できる目途があると昨年に発表している。
http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1312/03/news105.html

■電池は何が最も大切か
電池で最も大切な要素は、まず、1)電圧の高さ。そして、2)次に放電時間の長さ、最後に、3)放電中の電圧の維持だ。
つまり、電池は長持ちで強力である、ということが最重要だ。
だが、batteniceは、これら3つの条件を満たさない。
電圧は1.5V目標、放電は急速放電、電圧は、放電中に低下と予想している。

■batteniceの構成
特許公報によれば、量子電池batteniceの構成部材及び製造工程は以下の通りだ。

1)充電層(この製品の鍵となる発明である)
充電層は、微粒化n型金属酸化物半導体(酸化チタン)の表面にシリコーン絶縁層が形成されている。つまり、酸化チタンの微粒子の各々に表面に絶縁層を塗ったものだ。その微粒子を塗布した厚膜(1μ以上)層が電子を格納する充電層となる。
特許のキモは、この充電層に紫外線を照射すると二酸化チタンから電子がトンネル効果によりシリコーン絶縁層を通り抜け、新たなエネルギー準位が形成されることだ。つまり、充電時には、逆に、電子が絶縁樹脂をトンネル効果により通り抜け、酸化チタン微粒子がその電子を格納する。充電層には、いく重にもなった微粒子が折り重なっており、微粒子の配置はかなり「大雑把」(ランダム)な膜である。

2)充電層の製造工程
液体状の溶媒に有機金属材料(脂肪酸チタン)をシリコーンオイルに分散させた塗布液を作成。基板上に塗布・乾燥し、300度の温度で焼成する。最後に紫外線を照射する。
この温度は、推測するに、樹脂コーティングのため、これだけの低温プロセスにしなければならないのであろう(微粒子を覆う絶縁膜の耐熱温度が低い)。

■量子電池の最大の利点。内部抵抗の低さ。小型化が可能。
すべての電池には、内部抵抗がある。
内部抵抗は、電池の内部に、電流の流れるのを邪魔するモノがあるために生じる。
リチウム2次電池の場合、多くは電解質による抵抗だ。
内部抵抗が大きな電池は、高出力や高入力ができない。
(高入力ができなければ、充電時間が長くなる)
たとえば、電極の厚さは、携帯向けのリチウムイオン2次電池では、100マイクロメートル(μm)程度。これが、ハイブリッド向けリチウムイオンでは、電極は20マイクロ厚程度と、携帯に比べ1/5程度の薄さになる。電極が薄くなればなるほど、製造は難しい。
リチウムイオン2次電池の技術トレンドとして、電極が年々薄くなる理由は、内部抵抗を減らすためだ。イオン電池は、負極と正極の間をイオンが移動する。
電子と比べて体が大きなイオンは、移動するのが下手。リチウムイオン電池の電解質は、イオンの導電性が劣るものが多く、導電性が劣る電解質の層をいくら薄くしても、大きな内部抵抗が生じる。
その背景は、イオン電池の基本的な仕組みだ。
化学反応は、電極と電解質との界面で生じる。
そのため、どの電池も、電極と電解質との接触面積を増やそうと、表面に小さな穴をたくさん空ける。電極の内部にも、「抵抗の大きな」電解質は入り込む。
電解質の膜だけではなく、電極がそのものが薄ければ、内部抵抗は低くなる。
何百アンペアという高出力の電池は、極力、内部抵抗は小さく設計される。また、車向け電池は大容量。電池セルをいく重にも巻くか積む必要があり、そのため、単体セルは薄い方がよい。
一方、量子電池batteniceはIR発表で11マイクロメートルの厚さしかない。既存のリチウム電池の数分の1だ。これはすばらしいことである。小型化薄化に大いに期待が持てる。なにより、電解質による内部抵抗がない。

■量子電池の利点その2サイクル特性で際立つ
リチウムイオン2次電池の放電と充電は可逆的な化学反応がベースだ。
化学反応なので、100%完全な可逆性はない。電極が、リチウムの吸蔵・放出の際に、活物質の体積が膨張・収縮するため、活物質の微粉化や、集電体(金属箔)からの剥離を生じてしまう。電極が剥離してしまえば、電気を集める量が減り、充電・放電の特性が落ちていく。たとえば、99.7%の可逆反応では、1年365日を毎日充電すれば、容量は約1/3に低下して
しまう。一方、量子電池は、可逆性が100%。日本マイクロニクスは目標仕様として10万回サイクルと設定した。
リチウムイオン2次電池にない量子電池batteniceの極めて大きな利点だ。

■量産化可能な製造プロセス
特許に書かれているbatteniceの製造工程はシンプルである。これは、メリットであり、デメリットである。メリットは、量産可能性の高さだ。デメリットは誰でも製造可能に見えることだ。
ノウハウは、微粒子の粒径制御や酸化チタン微粒子を囲むシリコーン膜の膜厚制御であろう。物理学会などの事例では、ナノオーダーのシリコーン膜の実験が作成できるという研究発表がある。トンネル効果を期待する以上、シリコーン膜はナノオーダが望ましいだろう。この膜(微粒子)の出来が量子電池の性能を大きく左右すると思われる。
batteniceの充電層の製造プロセスは低温プロセスであり、300度前後。良質な結晶構造を基板上に形成するには、かなり不利な条件であろう。
(高分子有機ELを含むインクジェットプロセスがあれほど期待されながらモノにならなかったのは低温プロセスの難しさを物語る)
充電層を挟むn型とp型の半導体層で挟み、電子を閉じ込めるためのバンドギャップを形成する。配線層を形成した後、基盤をスパッタリングという薄膜形成装置で真空にて形成する。
基板に電極形成。n型半導体スパッタ形成。充電層の塗布・乾燥・焼成。その後、p型半導体スパッタ形成。電極を上部にかぶせる。
特許文献によるとp型半導体は、酸化ニッケル膜で150ナノ厚とある。酸化物半導体の第一人者である東京工業大学S教授の昨年の資料では、酸化物半導体のp型の設計の歴史は浅く、1997年に指針が示されたという。
今回の発明では、このp型半導体層が充電時に電子を通さないための障壁として機能する。
これは量産性の高いプロセスだ。だが、この電池の量産性は既存の電池の量産性には当面、太刀打ちできないだろう。
後述するが、battenice基板を数メートル幅にまで幅広化できなければ、量産プロセスでイオン電池に負ける。

■量産化が実現すれば、株価はどうなるのか
マイクロニクスが量子電池を量産化できるとしよう。
既存のすべての電池を置き換えたと仮定しよう。
その前提で利益がどの程度でるのか概算すればよい。
どの程度の利益がでるだろうか。残念ながら、利益はまったく出ない。
これは、よく情報弱者が陥るトラップで、新製品が普及すれば利益がでると考えてしまう。
量子電池の性能で、既存の電池を上回るのは急速充電性とサイクル特性である。
だが、それらに付加価値を何倍も払うことはない。なぜなら、人は割高なものは使わないからだ。
たとえば、薄膜化という切り口では、コンデンサは半導体プロセスを用いれば、もっと性能がよいものができる。
そうならないのは半導体プロセスは高いからだ。
また、有機ELは液晶よりも画質で勝る。なぜ普及しないのか。それは液晶の量産性の高さだ。
有機ELのガラス基板は小さく、液晶ガラス基板は大きい。
リチウムイオン電池は、製造工程で、飛躍的な進歩を遂げている。大幅な価格ダウンを実現した。
塗布工程のrolltorollの電極の箔の幅広化。
それがコストダウンに効いている。
現在、数メートルという幅でリチウムイオン電池は製造される。
量子電池が数メートルという基板で製造できないのであれば、量産性で勝負にはならない。
量産と利益は別物だ。
リチウムイオン電池と比べて、セパレータの部分、電解質の部分など不要になるなどのプラス要因がある。
だが、価格面では、付加価値に乏しい電池だ。なぜなら、電圧という電池の一番大切な基本特性がbatteniceは既存電池に劣る。
量子電池の利点である電子移動度の高さはリーク電流となり放電時間の短さというデメリットとなってしまう。急速充電のメリットの裏返しだ。
最悪の場合、放電時に電圧がリニアで低下するかもしれない。リチウム2次電池は内部抵抗があっても3.7Vの電圧を持続する。
リチウムイオン2次電池は、電極界面でじわじわと反応するため、電子がイオンを介して、長時間に渡って安定した反応(放電)が維持できる。
だが、量子電池は、その高出力、低抵抗ゆえに、長時間の放電は難しい。
IR資料では、「急速充放電が可能」とある。だが、残念なことに、電池の急速充電はありがたいが、急速放電はありがたくない。急速な充電と持続的な放電は同時に両立はできない。両者はトレードオフだ。
量子デバイスが電池にはメリットとなるとは限らないと冒頭に述べた。このトレードオフが理由だ。

■batteniceの参入障壁の低さと製造業の競合の厳しさ
電池の最も基本となる性能で劣る量子電池は決して筋がよい技術とは言えない。
そうならないことがわかっているが、100歩譲って、batteniceが量産可能で、リチウム電池の数倍の値段で売れると仮定する。
事業として成り立つと仮定する。すかさず、中国や台湾が大型投資をする。
それでおしまいだ。batteniceは参入障壁が低い低温プロセス。
あれほど強固な基本製造特許があっても、太陽電池やLEDは、すぐに儲からないデバイスになったことを思い出してほしい。液晶パネルについても同様である。
参入障壁が低いビジネスは儲からない。量産化可能ということは、誰でもまねできる、ということだ。
いろいろ書いたが、電池展で可能な限り聞き取りをする。
現在、まだ、下準備段階だが、この量子電池の製品化は難しいとの印象を受けた。

■量子電池の容量の課題の背景
リチウムイオンは、量子電池で使用される酸化チタン微粒子よりも圧倒的に小さい。リチウムイオンの半径はピコオーダー。酸化チタン微粒子はナノオーダーでリチウムイオンより比較にならないぐらい大きい。
体積はスケールの3乗で効く。相当の空間が無駄になる。
batteniceの目標容量が500Wh/Lとそれほど高くないことと無関係ではないだろう。
イオン電池のリチウム電極は高密度。量子電池の酸化チタン微粒子(微粒子だが何十ナノスケール)は低密度。
投資家は基本部材の粒径を知らず、「量子」という言葉を評価しているのか。
電子が動くのだから、酸化チタン微粒子が動かなくても問題がない、とも思える。酸化チタン粉末は量子電池の構成要素である以上、高容量化の妨げになる恐れがある。
リチウムはイオンで電子を確実に運搬できる。一方、量子電子の充電層の酸化チタンは物理的に動けない。
イオンは動けるから、その動きをシミュレートできる。量子電池では、電子が充電層に均一に入り込む様子がシミュレートできない。トンネル効果を前提とする充電層がこれほど厚いと、個々の特定の粒子個体への電子の振る舞いが分からない。これでデバイス設計ができるのだろうか。
ランダムに配置された各々の微粒子群は不純物の海にいる。どの特定粒子にトンネル効果をどれだけ期待するのか。トンネル効果は通常は、ナノオーダーで生じる。
デバイスの信頼性は、結晶性や膜質のよさが左右する。量産性と膜質は当然、トレードオフになる。

■なぜbatteniceには高密度配線が必要なのか
量子電池では、電子が、外部から受ける力で半導体粒子(酸化チタン微粒子)に出入りする。量子電池は、1μという「分厚い」充電膜で電子を制御する。
通常、量子デバイスは、半導体プロセスで局所的領域でトンネル効果を再現する。
batteniceの膜で、果たして制御可能か。
そこで、導入されたとわたしが推測するのが、充放電の制御のための高密度配線だ。
マイクロニクスが得意とする高密度配線だ。これはプローブメーカーとして、彼らが最も得意とする技術だ。
batteniceは量子電池であるため、好ましくは各酸化チタン微粒子に個々に直接的に作用したい。そのためには、高密度配線によって、各粒子に働きかけることが必要となるはずだ。
この疑問については、2月末の電池展で確認したい。
Batteniceに高密度配線が必要であれば、製造コスト面と性能面で障害となる。
IR資料には、従来の配線と比べて、「一般的なプリント基板の30倍の高密度配線」。それは、「セラミック基板」で製造される、とある。
どれだけ割高にするつもりなのか?というのがそれを読んだ時の第一印象だ。
セラミック基板は、量産性に乏しい。rolltorollはセラミックでは難しい。電極の製造プロセスはバッチになるのか。また、既存のプリント基板の30倍の配線で安価なプロセスとはいえない。
副作用がある。電解質不要という構造でイオン電池に勝っていたはずの量子電池。だが、高密度配線の導入により配線抵抗の増加という副作用が生じてしまう。
配線は細ければ細いほど(高密度配線)、長ければ長いほど(積層化による引き回しで)抵抗は大きくなる。
電池の内部抵抗が高くなる。
配線抵抗は高電圧化への障害だ。電解質がない利点が、配線抵抗増という副作用でオフセットされるリスクがある。

■はたしてトンネル効果なのか?
batteniceは量子電池という発表だが、わたしは疑問に思っている。
実は、トンネル効果とコンデンサ効果が混在している疑いだ。
なぜなら、batteniceの構造は、高誘電体である酸化チタン微粒子を薄膜化し、それを電極で挟んだものだ。誘電体を電極で挟んだらコンデンサだ。だから、コンデンサ的な性質が見えてとれる。
この点は、多くの投資家が感じ取っているはずだ。量子効果による蓄電か、コンデンサによる帯電か、その両方か、見極める必要がある。

■共同開発者グエラテクノロジー
グエラテクノロジー社は、富士通出身の中澤氏が設立したベンチャー企業。
中澤氏の過去100件近い特許の大半は、インクジェット関連の特許。量子デバイスに特段の知見はないようだ。
彼が元々、インクジェット関連の開発に従事していた。今回の発明では、酸化チタンの微粒をコーティングする塗布技術が出発点かもしれない。
一方、日本マイクロニクスも量子デバイスに対する知見は高くない。それは、彼らが配線基板の専門家だからだ。
ベンチャーには2つの厄介なタイプがある。
ひとつは、盲信かもしれないが、心からその技術を信じている場合。
もうひとつは、補助金の獲得が目的の技術営業者。
投資家サイドのアナリストは技術に疎い。
アナリストの多くは、経済学部やMBAなどの文系出身者。
たとえば、コンデンサを新型「量子デバイス」と言い換えられたら、ふたつとも物理「電池」であり、嘘ではない。化学電池にない利点がある。嘘ではない。アナリストは騙されてしまう。
もちろん、中澤氏はそんな方ではないと信じている。
一般的に、人はわからないものを過大評価してしまう。

■巨大彗星、宇宙の藻屑と化す。新技術の運命
新しい技術は、世の中で厳しく試される。
昨年、観測が期待された彗星アイソン。長い尾を引く美しい姿を多くの天文ファンは楽しみにしていた。だが、太陽に接近し、彗星のコア部分は太陽の熱に耐えかねて消滅してしまった。
新技術も彗星のようなものだ。世の中の荒波の中で、多くは砕け散る。本物なら生き残る。
量子電池は、これから、世の中の厳しい検証を受ける。
基礎研究の段階にも関わらず、基礎原理より、商売(量産性)を当事者たちは追求した。量子電池の学術的データはなく、実験データは非公表。電圧の推移やら、現状の電圧水準やらなにも発表がなく、製品としての目標値を発表した。データがないので、議論ができない。
もし、酸化物半導体がこんな安価な低温プロセスで良質膜ができるとしよう。
ならば、どうして、あんなに苦労して、長年、東京工業大学グループは酸化物半導体を研究し続けているのだろうか。
もし、酸化物半導体のPN接合デバイスが、こんな安価なプロセスで作成できるなら、量子技術者たちのこれまでの血と汗はなんだったのか。
材料株に乗っかって容易く利益を稼ごうとする者は、「株は夢を買うものだ」。
その何がいけないというだろう。
いま、NISAの新規開設口座で、材料株投資が盛んだ。材料株を推奨する
証券マンがいる。また、そのストーリーに乗ってしまう機関投資家がいる。
そういうことを繰り返しているうちは、ファンダメンタルズ重視の投資家にはなれない。
読者の中に、プロを目指す方がいるなら、確かな分析力を自分のものにすべきだ。
関連企業の特許を丹念に読み、技術の専門書を理解し、業界やエンジニアや研究者の方々の意見を聞き、最終的には、常識を総動員して、株価の判断をすべきだ。
その結果、量子電池事業が将来のFCFを生み出すという確信に変わり、その時点で株価が割安なら、投資に踏み切ればよい。
わたしは、個人投資家には、材料株を買ってもらいたくはない。
電池展が今月末にある。わたしの数々の疑問は、どのように解消されるのだろうか。電池展が楽しみである。
この結果は、追って報告したいと思う。

山本潤

日本株ファンドマネージャ
(コロンビア大学工学修士)
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※引用終わり


posted by パァ〜プ山田 at 03:11| Comment(0) | 投資 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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